[セミナー]第40回IPB セミナー

[セミナー]第40回IPB セミナーを下記の通り開催します。
日時:2023年7月3日(月)10:30-12:00
場所:東大駒場Iキャンパス16号館 第1専攻会議室 hybrid開催
講演者:藤森大平氏(スタンフォード大)
タイトル:クロマチン凝縮はエピジェネティック記憶を予測する
※オンライン参加の方はご登録下さい↓
https://u-tokyo-ac-jp.zoom.us/meeting/register/tZwrdeuqrz0rGdJ3hL3fhngBmspcbOP7AY53

要旨:ヒストンやDNAへのエピジェネティック修飾は、真核生物の遺伝子発現における主要な制御基盤の一つである。特に、細胞分裂を超えて修飾が継承される現象はエピジェネティック記憶と呼ばれ、細胞分化、免疫応答あるいは代謝ストレス応答のような一過的な刺激に応じた遺伝子発現変化を長期間維持する役割を担う。転写抑制を伴う修飾の代表であるH3K9me3はクロマチン凝縮を引き起こすことが知られており、このようなクロマチン状態の変化はエピジェネティック修飾を介した遺伝子発現制御に重要であると考えられている。しかしながら、実際の生体内で起こるような動的な刺激に対して、クロマチン状態がどのように変化し維持されるのか、またそれが遺伝子発現とどう関連するのかといった定量的な解析は進んでいない。今回我々は、ゲノムに組み込んだレポーター遺伝子へのエピジェネティック修飾酵素の結合・解離を操作する系を用いて、一過的な摂動を与えたときのエピジェネティック記憶形成を計測するとともに、多重DNA FISHを用いてクロマチンの立体構造変化を一細胞レベルで解析した。はじめにH3K9me3修飾を誘起することで知られるKRABドメインを結合・解離させたところ、一部の細胞が確率的にエピジェネティック記憶を形成し、転写抑制が長期にわたり持続することが分かった。クロマチンの立体構造を計測したところ、KRABドメインの結合は10kbスケールのクロマチン凝縮を引き起こすこと、さらにKRABドメイン解離後もエピジェネティック記憶を形成した細胞ではクロマチン凝縮が維持されていることが分かった。ヒストン脱アセチル化酵素であるHDAC4の結合では、転写は抑制されるもののエピジェネティック記憶もクロマチン凝縮も観察されず、凝縮は転写抑制によって引き起こされているわけではないことが示唆された。KRAB変異体等を用いて異なるレベルのエピジェネティック記憶を形成する系を構築したところ、より強いクロマチン凝縮を示す条件ではより高いエピジェネティック記憶が形成されることを見出した。これら人工的な系での観察結果と同様に、マウスES細胞の細胞分化において、Nanog遺伝子座のクロマチン凝縮はNanog遺伝子の発現レベルよりも分化不可逆性に対する予測性が高いことがわかった。以上の結果は、エピジェネティック状態に対する一過的な摂動が引き起こすクロマチンの立体構造の変化は、遺伝子発現変化の不可逆性を予測することを示唆する。