第21回IPB セミナーシリーズ

[セミナー]第21回IPB セミナーを以下のように開催します。
日時:2021年3月25日(木)10:30-
場所:オンライン
講演者: 作道 直幸 氏 (東京大学)
タイトル:高分子ゲルにおける負のエネルギー弾性
参加希望の方は、登録をお願いします。
https://forms.gle/kPDMe9XzgYuEioKv7

Abstract:
ゴムや高分子ゲルは、鎖状高分子の(永続的な)三次元網目構造からなるやわらかい物質である。この内、大量の溶媒を含むものを高分子ゲル、含まないものをゴムという。熱力学や統計力学の学部講義や教科書において、ゴムの弾性は熱力学第二法則に由来する「エントロピー的な力」の代表例として登場する [1,2]。現実のゴムの弾性において「エントロピー的な力」が支配的であることは、体積一定の条件下における、ずり弾性率(G)の絶対温度(T) 依存性の測定から確かめられる。なぜなら、熱力学の一般論から、エントロピー変化由来の弾性(エントロピー弾性)が、TG'(T)となるからである[1,3,4]。天然ゴムや合成ゴムにおいては、それらの弾性がほとんどエントロピー変化由来であることが実験的に確かめられている [3,4]。一方、高分子ゲルにおいては、実験的検証なしに、その弾性がエントロピー変化由来であると仮定して、ゴム弾性論が慣習的に使用されてきた [5]。

本研究は、高分子ゲルにおいて、この仮定が誤りであることを発見した [6]。高分子ゲルは、エントロピー弾性に加えて、内部エネルギー変化由来の「負のエネルギー弾性」を持ち、その合計で弾性が決まる。我々は、50種類以上の相異なる網目構造を持つゲルを作り分けたが、その全てに無視できないほど大きな負のエネルギー弾性が存在した。さらに、負のエネルギー弾性には、現象論的な支配法則があることも明らかになった。ゲルの含む溶媒を減らす(ゴムに近づける)と、負のエネルギー弾性はゼロに近づくため、ゴム弾性の実験結果とも整合的である。逆に言えば、溶媒由来の「負のエネルギー弾性」が、ゴム弾性とゲル弾性の本質的な違いである。セミナーでは、時間が許せば、ゲルの浸透圧における普遍法則 [7] についても軽く触れる。二つの研究 [6,7] を合わせると、高分子ゲルの「完全な熱力学関数」は比較的シンプルな構造を持つことがわかる。

[1] 前野昌弘『よくわかる熱力学』(東京図書, 2020) 10.5節
[2] 田崎晴明『統計力学1』(培風館, 2008) 5.6.4節
[3] 久保亮五『ゴム弾性論』(河出書房1947、裳華房1996)
[4] P.J.フローリ『高分子化学(上・下)』(丸善1955)
[5] 例えば、M. Zhong, et al., Science (2016)
  https://doi.org/10.1126/science.aag0184
[6] Yoshikawa, Sakumichi, Chung, Sakai, PRX (2021)
  https://doi.org/10.1103/PhysRevX.11.011045
[7] Yasuda, Sakumichi, Chung, Sakai, PRL (2020)
  https://doi.org/10.1103/PhysRevLett.125.267801